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インタビュー

「SPAで北海道の鮮魚を安く・全国に」――「ラフダイニング」大坪友樹社長インタビュー

居酒屋「港町酒場もんきち」を中心に北海道で9店舗、長野県松本市に北海道海鮮業態開発プロデュースを行った「シハチ水産」のほか、北海道の鮮魚のEC流通・卸を行う「SHIHACHI」などを展開する「ラフダイニング」は、北海道らしい新鮮な鮮魚を手頃な価格で提供する店を多数展開している。代表取締役社長の大坪友樹氏は上場企業の専門商社から飲食業界に飛び込んだ。産直の仕入れルートの開発や、長野県松本市での業態プロデュースなど北海道外にも活動の幅を広げている「ラフダイニング」の展望とは。


商社で学び、24歳で独立

――まずは経歴を教えてください。
大坪友樹氏(以下、大坪):北海道北見市で生まれて、小中高大と札幌で過ごしました。高校生の頃から大学卒業まで和食店でアルバイトをし、その後家具などを扱う専門商社に就職し、24歳で独立・開業しました。飲食業界を選んだ理由は、学生時代ずっとアルバイトをしていたからですね。勢いで辞めて、起業した側面が大きいです。
――創業店について教えてください。
大坪:会社を設立した翌年に私を含めた3人で札幌市南区・澄川にオープンした「懐飲庵(かいいんあん)」が創業店です。この店はなんでも提供していて、「来てくれたお客様を楽しませよう!」という思いで続けていました。開業当初は売り上げもなかなか上がらず大変でしたが、1年くらい続けていると繁盛し始めて、常連のお客様で満席になることも少なくありませんでした。創業店は現在、働いてくれていたスタッフが事業継承を行い、弊社ではコンサルを行っています。
――その後、3店舗目で現在も人気の「もんきち」が誕生したのですね。
大坪:社員が増えたことで、1年後には2店舗目の出店となりました。当時は完全に勢いで、3店舗目の出店までは「バカ」でしたね(笑い)。3店舗目の「港町酒場もんきち白石店」がターニングポイントになりました。祖父が釣具屋で、妻の実家や親戚も漁業関係だったり、という影響があって「魚」をメインに据えた業態に。当時は「楽しい、賑やかな店」というだけで、産地直送にはこだわっていなかったんです。5店舗くらいまでの出店はすべて業態がバラバラだったのですが、あまりうまくいかなくて。これは業態を絞っていかなければならないな、と思い、すべての店を業態変更し、「もんきち」に統一しました。その後、よりお客様に喜んでいただくためにさらに業態を深耕していき、「もんきち」と「SACHI」という2つの業態が生まれました。同時に、常連様だけでなく、スタッフからも愛される店作りをしようとも思い始め、スタッフの給与面や福利厚生、労働時間など労務管理にも着手し始めました。

 

「産直」ルートの開拓

――常連様・スタッフに愛される店作りのひとつが産直だったのですか?
大坪:お客様に安く商品を提供し、利益をきっちりと上げてスタッフに還元できるか。材料費・人件費(FL)以外のコストを抑え、スタッフに還元しようと考えました。産地から飲食店まで直接ルートを結べれば、中間マージンや流通コストを抑えることができるので、コストカットが可能だと考えました。はじめて産直を行ったのは豚肉です。豚肉の精肉を一頭買いしました。実際に一頭買いをしてみたら、良質な豚肉が驚くほど安く手に入ったのです。それなら魚も産直にしようと思い、北海道中の漁協にアプローチ。さまざまな情報収集を行い、話を聞いてくれそうな漁協に飛び込みで当たりました。何件も何件も断られましたが、粘り強く続けていると、えりも漁協様と直接取引ができるようになるなど、現在では複数の漁協とお取引ができるように。産直ならではのメリットはこのほかにもあって、流通には乗らない漁師さんたちだけが食べているような魚介が手に入ったり、現地ならではの食べ方を知ることもできます。これらを店で提供してブランド化し、価値を高めると私たちだけでなく、漁師さんにとってもメリットに。私たちだけが儲けたり、喜んだりするのではなく、関わってくれる皆様が喜んでもらえる仕組みが「産直」だと考えています。

 

産直の次のステップ

――「SHIHACHI(しはち)」は産直の次のステップなのですか?
大坪:産直によって安く商品を仕入れられても、店に届くまでの送料が大きければ意味がありません。送料がかからない物流の仕組み作りも重要です。浜から直接札幌の市場に送られるトラックに商品も混載してもらうことで、送料の問題をクリア。これによって、私たちの商品に価格優位性が生まれました。その優位性を活かして始めたのが「SHIHACHI」です。産直をはじめた当時は、仕入れた魚を店で捌いたり、仕入れの手配なども行っていました。しかし、仕入れる数が多くなると問題になってきたのが労働時間が長くなることです。今は労務管理をきちんと行っていかなければなりません。労働環境が整えば、スタッフにも喜んでもらえますよね。そこを解決するために、自社にて鮮魚卸売事業を本格的に立ち上げ、セントラルキッチン(CK)などの準備に取りかかっています。
――「SHIHACHI」について詳しく教えてください。
大坪:「30年後、世界の食卓に鮮魚が並び続けるために。」をコンセプトにしている「SHIHACHI」は鮮魚の発注ができるECサイトです。私たちの店だけに卸すのではなく、札幌市内の多くのお店にご利用いただいています。さんま一尾からでも注文可能で、16時からの注文受け付けで翌日9時から15時までに配送を行っています。極小ロットでも注文可能なので、小さなお店でも新鮮な魚を仕入れること可能。私たちの店に配達するついでに配達することも可能なため、札幌市内は送料無料で提供しています。一尾そのままの配達も可能ですが、開きなど加工した状態での配達も可能です。SPA(製造小売)の発想で魚を卸すことで、商品により付加価値をつけることができました。

 

居酒屋をアップロードする

――BtoBビジネスも展開するなど、事業は拡大を続けていますね。今後はどのような展開を考えているのでしょうか?
大坪:10店舗を構えていく中で、今後も酒場としての店舗数を拡大していくことのみが、本当に私たちにとって正しいことなのかを考えるようになりました。弊社のミッションでもある「北海道、札幌を世界一魅力的な町に」という思いを形にするうえで、今まで培ってきたSPA戦略を活かしていきます。
――新店舗・新事業などの予定はあるのでしょうか?
大坪:飲食店から派生するビジネスの展開を広げていきたいと思っています。たとえば今進めているものでは、お客様同士が旅の思い出として良質な出会いや体験ができるような場所。「出会いをつなぐ」横町のような場作りをしていきたいです。また、中食、内食への本格参入として、「鮮魚店×角打ち店舗」も準備を進めています。午前中から本当に美味しい魚を地元価格で食べられる魚屋です。このほか、親子三世代で訪れられ、子どもたちに鮮魚の学びや体験ができるようなレストランも展開していきたいです。この北海道、この札幌に訪れる人が食を通した魅力をさらに体験できるような、住んでいる人にとって食というものがさらに魅力的に思ってもらえるようなきっかけ作りを通し、弊社のミッションの具現化を進めていきたいと考えています。
大坪友樹氏プロフィール
北海道・北見市生まれ。札幌で育ち、大学卒業後は商社に就職。24歳の時に独立し、飲食店を開業。現在、10店舗を展開する。札幌観光大使。

(取材=中田 徹)

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